竹取物語 現代語訳 天の羽衣 (三)

竹取物語 現代語訳 天の羽衣 (三)

訳者まえがき

 

ここに掲示されている訳は「逐語訳」です。

 

直訳に近いので、不自然な文章になっている部分があるのはそのためです。

 

高校生時代の授業の記憶や古語辞典を頼りに訳しています。

 

 

竹取物語 天の羽衣 第三回です。

 

 

本文
そして十五日、各役所に仰せになって、勅使が、少将高野大国(たかののおおくに)という人に

 

指示して、六衛※1の役人あわせて二千人の人を、竹取の翁の家に遣わしました。

 

家に参上して、築地(ついじ)※2の上に千人、屋根の上に千人、家の人々がもともと

 

多かったことも併せて、隙間もなく警護にあたらせました。

 

この警護にあたる人々は、弓矢を帯びて待機していました。

 

家の中では、女性たちに番としてお守りさせました。

 

 

媼は、塗籠(ぬりごめ)※3の中で、かぐや姫を抱きかかえてじっとしていました。

 

翁も、塗籠の戸を固く閉ざして、戸口の外に居座っていました。

 

翁が言うことには、

 

「これほどの警護をしているのだから、天人(てんにん)※4にだって負けるものか」

 

と言って、屋根の上にいる人々に向かって言うことには、

 

「少しでも、何か、空を飛ぶものがあれば、さっと射殺してくださいませ」

 

警護の人たちが言うことには、

 

「これほどの状態で警護している所に、コウモリ一匹といえども、まず射殺して、

 

外に向けて晒し物にしようと思っています」

 

と言います。

 

 

これを聞いて、かぐや姫は、

 

「固く戸を閉ざして、守り戦う準備をしたとしても、あの国の人に対して、

 

戦うことはできないでしょう。

 

弓矢をもってしても射ることはできないでしょう。

 

このように戸を固く閉ざしていても、あの国の人が来たなら、みなきっと開いて

 

しまうでしょう。

 

相対して戦おうとしようとしても、あの国の人が来たなら、勇ましい人であっても、

 

決してできないでしょう」

 

翁が言うことには、

 

「御迎えに来る人を、この長い爪で、目の玉を掴んで潰してやろう。

 

そいつの髪をつかんで、乱暴に引きちぎってやろう。

 

そいつの尻をかきむしって、丸出しにさせて、ここらの公衆に晒して、

 

恥をかかせてやる」

 

と腹立ちまぎれに言います。

 

 

かぐや姫が言うことには、

 

「声高におっしゃらないでください。

 

屋根の上にいる人たちに聞こえるので、とてもみっともないことです。

 

爺の多くの志もわきまえ知らずに、去って行かなければならない※5ことが、

 

残念な思いでいます。

 

親たちに対する世話を、少しもすることができないので、行き来の道も簡単ではない

 

だろうから、日ごとに出て座って、今年いっぱいの期間を願い申し上げたけれど、

 

絶対に許されないこととされて、このように思い嘆いているのです。

 

お二人の御心を乱したまま去っていくことが、悲しく堪えがたいのです。

 

かの都のひとは、とても清らかなさまで、老いることがありません。

 

悩むようなこともないのです。

 

そのような所へ去っていくことも、何とも思えません。

 

老いてゆくご様子を見て差し上げることが、心残りなのです※5

 

と言うので、翁は、

 

「胸が痛むようなことをおっしゃらないでください。

 

壮麗な姿をした使いであっても障害にはなりません」

 

と、憎々しげに言いました。

 

 

天の羽衣 (四)

 

竹取物語
(原文:角川ソフィア文庫 新版 竹取物語より)

 

 

 

訳注
※1 近衛・兵衛・衛門の三府がそれぞれ左右に分かれて、合わせて六衛

 

※2 土塀のこと

 

※3 寝殿造りの母屋にある、土塀で囲まれた二間♯1四方の部屋。

 

   最も神聖な場所とされ、寝殿造りでは宝物庫や寝所にあてたりした。

 

♯1 柱と柱の間のことで、長さを指す言葉ではありません。

 

   また、昔は一間の長さの基準も決められていません。

 

   現在では一間は1.8mと決められています。

 

※4 天上に住み、超人間的な力を持つといわれる存在。

 

   たいていは女性の姿をとる。

 

※5 原文では使役系となっています。

 

   直訳すると不自然になるので意訳しています。

 

 

8月15日当日の動きです。

 

帝は勅令を出して、六衛を遣わし竹取の翁の家を警護にあたらせます。

 

ここで竹取邸の大きさが具体的にわかります。

 

土塀に千人、屋根の上に千人がゆうに乗れるほどの大きさで、塗籠があることから

 

寝殿造りであることがわかります。

 

それに加えて竹取邸で働く従者もいることから、翁はとても富豪でもあります。

 

 

後半はかぐや姫の、竹取夫婦に対する思いが吐露されます。

 

かぐや姫は月へ行かねばならないことを覚悟しているのに対して、翁の強がりが

 

対照的に描かれています。

 

もっとも、これが親心というものです。