竹取物語 現代語訳 燕の子安貝 (三)

竹取物語 現代語訳 燕の子安貝 (三)

訳者まえがき

 

ここに掲示されている訳は「逐語訳」です。

 

直訳に近いので、不自然な文章になっている部分があるのはそのためです。

 

高校生時代の授業の記憶や古語辞典を頼りに訳しています。

 

 

竹取物語 五つの難題・燕の子安貝 第三回です。

 

 

本文
人々が驚いて、近寄って抱きかかえてさし上げました。

 

中納言は白目をむいてお倒れになっていました。

 

人々は、水を飲ませて差し上げます。

 

やっと意識を取り戻しなさったので、また鼎の上から手取り足取りして、

 

下ろして差し上げました。

 

ようやく「ご気分はいかがですか?」と訊ねると、声も絶え絶えに、

 

「意識が少しはっきりしないけど、腰を動かすことができません。

 

でも、子安貝を簡単に掴むことができたので、うれしく思います。

 

まず紙燭※1を持ってきてください。

 

この子安貝を確認しよう」

 

と頭を起こして、手をお広げなさると、燕がした糞※2の古糞をお握りなさっていました。

 

それをご覧になって、

 

「ああ、貝でなかったなんて、甲斐のないことだ※3

 

とおっしゃったことから、希望したことと違うことを、「かいなし」と言うようになりました。

 

 

貝ではなかったとご覧になったので、お気持ちも変わってしまって、

 

中納言にお乗りになってもらおうとした唐櫃(からひつ)※4の蓋に、お入りになることも

 

できないほどに、腰が折れてしまわれました。

 

中納言は、世間の笑いものになることをして終わってしまったことを、人に聞かせまいと

 

なさったけれど、それが原因で病気になり、ずいぶん気弱になってしまわれました。

 

貝を取ることができなかったことよりも、人がそれを聞いて笑い者になることを、

 

日を追うごとにご心配になられたので、ただ病気で死ぬことよりも、

 

世間の評判が恥ずかしくお感じになられていました。

 

 

これを、かぐや姫が聞いて、お見舞いに寄越した歌に

 

 

年を経て 浪立ち寄らぬ住(すみ)の江の 待つ甲斐なしと 聞くはまことか♯1

 

 

とあって、中納言に詠んで訊ねました。とても意気消沈であったけれど、頭を起こして、

 

使用人に紙を持ってこさせて、重い病気の中でやっとの思いでお書きになりました。

 

 

甲斐はかく ありけるものを わびはてて 死ぬる命を すくいやはせぬ♯2

 

 

とお書きになった後、お亡くなりになられました。

 

これを聞いて、かぐや姫は、少し気の毒に思いました。

 

それからというもの、少しうれしいことを、「甲斐あり」と言うようになりました。

 

 

御狩の御行 (一)

 

竹取物語
(原文:角川ソフィア文庫 新版 竹取物語より)

 

 

 

訳注
※1 室内用の照明用具

 

※2 原文:まり置ける(放り置ける) 「放る」は大小便をするという意味

 

※3 原文:貝なのわざや 「貝な」は「貝無し」と「甲斐なし」の掛詞

 

※4 足の付いた長方形の櫃のこと。主に衣類・調度を入れるもの

 

♯1 「立ち寄らぬ」は浪が来ないことと、中納言がかぐや姫の家に立ち寄らないこと、

 

   「待つ」は住の江の「松」と、「甲斐なし」は「貝無し」との掛詞

 

   歌の意味
   ずいぶんの間、波の打ち寄せない住の江の松のような気持ちで

 

   中納言がこちらに立ち寄ってくるのを待っているのだけれど、

 

   取ろうとした甲斐もなく子安貝を手に入れられなかったとうわさに聞くのは本当ですか?

 

♯2 「甲斐」は「匙」(貝の殻から作られたさじ)と、「すくひ」は「救い」と匙からかかって

 

   「掬い」との掛詞

 

   歌の意味
   お見舞いをいただいた甲斐はありましたのに、落胆のあまりに死にそうな命を匙で掬う

 

   ように救ってはくれませんか

 

 

中納言が子安貝と思って掴んだものは、ただの燕の糞でした。

 

それだけでもがっくりとくるのに、「世間の笑い者になるのでは」と心配するあまり、

 

すっかり病の床に伏してしまいました。

 

かぐや姫からお見舞いの歌が寄こされますが、返し歌を書いた後、亡くなってしまいます。

 

唯一、かぐや姫が同情してくれた人です。