竹取物語 現代語訳 火鼠の皮衣 (三)

竹取物語 現代語訳 火鼠の皮衣 (三)

訳者まえがき

 

ここに掲示されている訳は「逐語訳」です。

 

直訳に近いので、不自然な文章になっている部分があるのはそのためです。

 

高校生時代の授業の記憶や古語辞典を頼りに訳しています。

 

 

竹取物語 五つの難題・火鼠の皮衣 第三回です。

 

 

本文
かぐや姫が、翁に言うことには、

 

「この皮衣は、火で焼こうとしても、焼けないもの※1こそ、本物だと思うし、

 

人が偽りを言っても、騙されないでしょう。

 

『世に二つと無いものであれば、それを本物と疑いなく思いましょう』とおっしゃる。

 

それでもやはり、焼いて試してみましょう」

 

と言います。

 

翁は、「それを、そのとおりにお伝えしましょう」と言って、右大臣に、

 

「このように申しております」と伝えました。

 

右大臣は、答えておっしゃったのは、

 

「この皮衣は唐土にも無かったものを、辛うじて尋ね求めて手に入れたのです。

 

どうしてお疑いになるのですか」。

 

「わたくしもそのように申し上げるのですけれど※2、早く焼いて証明しましょう」

 

と言って、火の中にくべて焼いておみせになったところ、めらめらと燃えてしまった。

 

「やっぱり思ったとおり、偽物の皮衣でしたね」と言います。

 

右大臣は、これを見て、両手で顔を覆って※3座り込んでしまわれました。

 

かぐや姫は「ああ、嬉しい」と喜んでいらっしゃいました。

 

右大臣がお詠みになられた歌の返し歌を、箱に入れて返しました。

 

 

名残なく 燃ゆと知りせば 皮衣 思ひのほかに 置きて見ましを♯1

 

 

とありました。そういうわけでお帰りになられました。

 

 

世間の人々は、

 

「阿部の右大臣は、火鼠の皮衣を持っていらっしゃって、かぐや姫と夫婦になって

 

お住みになるそうですね。こちらにいらっしゃるのですか?」

 

などと尋ねます。

 

ある人が言うことには、

 

「皮衣は火にくべて焼いて証明しようとしたら、めらめらと焼けてしまったので、

 

かぐや姫は、ご結婚されませんでした」

 

と言うので、これを聞いて、遂げられないことを“あへなし※4”というようになりました。

 

 

竜の頸の珠 (一)

 

竹取物語
(原文:角川ソフィア文庫 新版 竹取物語より)

 

 

 

訳注
※1 火の山に住む中国の伝説上の動物:火鼠の毛で織った不燃の衣。火鼠は水に弱く、

 

   水が数滴かかるだけで死んでしまう。そのため、火に焼くことで汚れを落とす。

 

※2 原文:さは、申すとも

 

   相手不明のため訳の難所。翁が右大臣の意見をかぐや姫に伝えたのか、

 

   翁も右大臣の意見と同じで右大臣に相槌を打ったのかはっきりしない。

 

※3 原文:顔は草の葉の色にて

 

   「顔色が草の葉のように青ざめる」ととるか、失意のために両手で顔を覆った

 

   様子が、「草むらで覆われたような状態の顔」という比喩表現か。

 

   “草”には「粗末な」の意味もある。

 

※4 “敢え無し”と“阿部なし”の掛詞

 

♯1 思ひの“ひ”は右大臣と同じく掛詞

 

   歌の意味
   「名残なく燃えてしまう皮衣だと知っていたなら、あなたの思いは脇に置いて、
   火のないところに置いて眺めたことでしょう」

 

 

かぐや姫はその皮衣が本物かどうか証明するために「火にくべてしまおう」と提案します。

 

そしてあっけなく燃えてしまう皮衣。

 

工芸品としては見事な物だったはず。

 

それにしてもかぐや姫の返歌は傷口に塩を塗る悪女のようです。