竹取物語 現代語訳 仏の御石の鉢
訳者まえがき
ここに掲示されている訳は「逐語訳」です。
直訳に近いので、不自然な文章になっている部分があるのはそのためです。
高校生時代の授業の記憶や古語辞典を頼りに訳しています。
竹取物語 五つの難題・仏の御石の鉢 です。
本文
そうは言っても、この女性と結婚※1しないままでは生きていられないような気がしたので、
天竺(てんじく)にある物であっても持ってこないことがあろうか、と思い巡らして、
石作の皇子(いしつくりのみこ)は、思慮に富んだ人であったので、天竺に二つとない鉢を、
百千万里を行ったとしても、どうやって入手しようかと考えて、かぐや姫のもとには、
「本日より、天竺へ仏の御石の鉢(ほとけのみいしのはち)を取りに行ってまいります」
と聞かせて、三年ほど経って、大和(やまと)の国の十市の郡(とおちのこおり)※2にある
山寺で、賓頭盧(びんずる)※3像の前にある鉢の、全体が真っ黒く墨のついたものを
取って、錦の袋に入れて、造花の枝を添えて※4、かぐや姫の家に持ってきて
見せたけれど、かぐや姫は疑わしく思いながら見ると、鉢の中に手紙がありました。
広げて読むと
海山の 道に心を 尽くし果て ないしのはちの 涙流れき♯1
かぐや姫は、光があるだろうかと見るけれど、蛍ほどの光すらありません。
置く露の 光をだにも 宿さましを 小倉の山にて 何もとめけむ♯2
と返し歌※5を詠んで、鉢を突き返しました。
石作の皇子は鉢を門前に捨てて、この歌を返しました。
白山に あへば光の 失するかと 鉢を捨てても 頼まるるかな♯3
と詠んで家に入れました。
かぐや姫は、返し歌も詠みませんでした。
耳に聞き入れられなかったので、なお言い寄って煩わせて帰りました。
偽物の鉢を捨てて、なお言い寄ったように、無遠慮なことを、「はぢをすつ※6」と言うのです。
(原文:角川ソフィア文庫 新版 竹取物語より)
訳注
※1 見=めあわせる→妻合はす(女合はす)=嫁入りさせる
※2 現在の奈良県桜井市のあたり
※3 十六羅漢の第一尊者
※4 貴人に物を贈るとき、季節の草木や造花を添えるが当時のマナー
※5 贈られた歌の意に答えて詠む歌のこと
※6 “鉢を捨てる”と“恥を捨てる”の掛詞(かけことば)
♯1 “ないし”は「泣きし」と「石」を、“はち”は「鉢」と「血」を掛けてます
歌の意味は
「海を越え山を越え、その道行きに精根尽き果て、石の鉢のために血の涙を流しました」
♯2 “小倉”と“小暗”の掛詞(かけことば)
歌の意味は
「朝露ほどでも光を宿しているかと期待したけれど、
小暗の山で何をお探しだったのかしら」
♯3 “白山”は“小倉の山”に対応し、かぐや姫のことを指す
歌の意味は
「白山のように美しいかぐや姫の前にして、光を失ってしまったのでしょう。
鉢の件はともかく、想いを受け取ってくれませんか」
石作の皇子に振られた難題・仏の御石の鉢の顛末記です。
石作の皇子が用意した偽物の鉢は、ただの古いだけの骨董品。
本物は光沢があり、青紺色に光ると言われています。
それだけに違いは明白、簡単に見破られてしまいます。
かぐや姫の試験をクリアしていないのに呼ばわったため、「恥知らず」と言われています。